ロイヤル顧客は利益をもたらさない?データが示したマーケティングの非常識

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2016年12月06日

マーケティングに有効利用できる行動履歴データ

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関係性技術が最も効果を発揮するのは、おそらく人の行動履歴データの分析においてです。数年前に「ライフログ」という概念が流行したことがありましたが、まさに人の生はさまざまな行動ログの連続です。

朝、目が覚めてから、着替えて、歯を磨いて、顔を洗って、お湯を沸かして、コーヒーを入れて、パンを焼いて、などといった行動の逐一を記録していけば、膨大なデータの束ができるでしょう。

もし、自分の行動がすべてデジタルデータに記録されていて、後から分析できるとしたら、多くの気づきが得られるに違いありません。

たとえば、あなたが1日にメールを読んだり書いたりしている時間はどれくらいになるでしょうか。直感的に答えると、せいぜい30分くらいだと思いがちですが、おそらくほとんどの人は1時間以上を費やしていると思います。

あるいは、メールも含めてインターネットにアクセスしている時間の合計はどれくらいあるでしょう。食事をしている時間や、移動に使っている時間などを計算しても面白いかもしれません。

ところで、あなたには「親友」といえる人はいるでしょうか。今、「親友」といわれて、ぱっと思い浮かんだ人と、最後に実際に会ったのはいつでしょうか。これが意外と、半前だったり、1年前だったりするものです。

もしくは、自分の親や兄弟姉妹の顏を思い浮かべてください。最後に会ったのはいつでしょうか。幼い頃は毎日顔を合わせていた家族でも、大人になって、住む場所が違ってしまうと、年に1、2回しか会わなくなるものです。

では、逆に、一緒に住んでいる家族以外で、あなたが最もよく会話しているのは誰でしょうか。会社の同僚? 上司? あるいは取引先の担当者でしょうか。計算してみると、隣の席の同僚と、毎日平均で30分くらい話をしているかもしれません。

だとすると、1年に1回程度しか会わない故郷の「親友」よりも、隣の席の同僚のほうが、よほど現在のあなたに影響を与えている可能性があります

あるいは、読んだ本の履歴を分析してみるのも面白いかもしれません。あなたは、この1年間で最もよく読んでいたのは、趣味の「鉄道」関係の本だと考えているかもしれませんが、実際、読書時間が最も長かったのは、仕事で使う「デザイン」関係の本だったりします。

自分の趣味は「ドラマ観賞」だと思っていた人が、分析してみると「ドラマ」よりも「ニュース」の視聴時間のほうが多いことがわかって、愕然とするかもしれません。長期的に分析してみると、毎年「ドラマ」を観る時間がどんどん減ってきていることがわかったりもします。

このように、人はどうしても過去の習慣や記憶にとらわれてしまうものですが、データは冷静に現実を映し出してくれます

このような行動履歴データは、マーケティングにおいても非常に役に立ちます。

たとえばこれまで、定性的なマーケティングリサーチは、ユーザーに対するアンケート調査や、ユーザー・インタビューによって行われてきました。しかし、アンケートやインタビューで得られる回答は、実際にユーザーが求めているものとは微妙にずれている可能性があります。人間の回答には、見栄や願望や思い込みが入るからです。

たとえば、食品や飲料の感想をインタビューやアンケートで求めると、実際よりは好意的な感想が多く集まります。調査の対象になった消費者が、相手の期待に応えたいと無意識に思うからです。

その点、行動は嘘をつきません。ですから、マーケティングにとっては、最も大事な生データだと考えられます。特にお金がからむ消費行動においては、実際にお金を支払って購入するかどうかが、企業が最も知りたいところだと思います。

行動履歴データが未来の顧客を明らかにする

たとえば、書籍の新しい企画を考えるために、マーケティングをするとしましょう。

読書が趣味だと公言しているAさんとBさんが、実際にどの程度の本を買って、どれくらい読んでいるかは、行動履歴データで分析してみなければわかりません。

調べてみたところ、Aさんは週に20時間、Bさんは15時間を読書に費やしていました。だからといって、Aさんに力を入れたマーケティングを行うべきかどうかはわかりません。

なぜならば、行動履歴データを分析すると、別の事実がわかるからです。

Aさんは毎週、図書館に通っていて、本屋にはまったく行っていないからです。一方、Bさんは仕事の帰りに、毎日のように本屋に寄っています。この場合、おそらく、出版社がマーケティングの対象として選ぶのはBさんです。自分でお金を出して本を買わないAさんは、直接の顧客には当たらないからです。

しかし、マーケティングにおいては、おうおうにして知識のある読書家のAさんにばかり注目が集まりがちです。本をたくさん読んでいることと、本をたくさん買っていることをニアリーイコールとしなければ、従来のマーケティングは成立しないのです。

行動履歴データを使わずに、AさんとBさんを見分けるのは容易ではありません。もちろん、アンケート調査で「あなたは月にどれくらい本にお金を使いますか?」と聞くことはできますが、たいていの人はそんな金額は覚えていません。また、ある月は1万円使ったとしても、次の月は5000円など、金額には幅があります。アンケートやインタビューで真実を知るのは困難です。

アメリカでデータ分析を手掛けているテラデータ社は、次のような事例を紹介しています。

ある航空会社は、毎年一定数以上の飛行機に搭乗した顧客を、プラチナ会員と位置付けて、各種サービスを提供して優待していました。しかし、飛行機への搭乗回数は、収益性の高さを即、意味するものではありません。

 飛行機のチケット代金は距離や座席によって異なりますし、時期によってもまったく違ってくるからです。そこで、運賃の高い路線に乗っているか、ファーストクラスか、ビジネスクラスか、エコノミークラスか、格安航空券を使用しているのか、またカスタマーサービスを利用して余計なコストをかけたかどうかなどを計算に入れて、分析をし直してみました。

その結果、なんとプラチナ会員のほとんどは航空会社にほとんど利益をもたらしていないことがわかったのです。航空会社のヘビーユーザーは、無駄なお金を使わないことにかけてもヘビーなユーザーだったわけです。

今では、その航空会社はすっかり考えを変えました。最近では、フライトがキャンセルされると、別便の空席を提供するときに、常連客を飛ばして、他社に乗り換えそうな顧客から先に提供しているそうです。マイレージ会員になっているロイヤルな常連客は、もっと遅い便が飛ぶまで待ってくれますが、そうでない顧客はさっさと他の航空会社に行ってしまうからです。

マーケティングにとって最も大切なのは、ファンをつくることではなく、お金を落としてくれる顧客を集めることです。似て非なるこの二つを分離することは、従来のマーケティングでは難しい仕事でした。行動履歴データがあれば、それが可能になるのです。

前回:信長の分析から分かる、思い込みや先入観を排除して広がるチャンス

次回:先入観なくデータ活用をするためのシンプルな考え方

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